◉藤野まるまるマルシェとは

藤野まるまるマルシェは、「ローカル&オーガニック」をテーマに、シュタイナー学園の保護者が中心になって開催している地域の市=マルシェです。地域の飲食出店やステージショー、アートワークショップなどが開催されます。主催団体は「藤野まるまるの会」。シュタイナー学園の保護者が主たるメンバーですが、特別にシュタイナー学園関係者であることが条件ではありません。年に1回11月頃に開催され、移住者やその他の地域の人たちが相互に関わり合って理解を深める唯一無二のイベントです。

 

◉目的1 学園移住者のための地域交流

 

シュタイナー学園のために移住してきた多くの人たちは、地域でどのようなことが行われているか、どのようにして子供のために安全で安心できる食材や商品を手に入れ、居場所を確保するかということに大きな関心があります。「藤野まるまるマルシェ」には、そういった移住者の不安を払拭し、確かな居場所を発見してもらう場所になっています。

 

◉目的2 地元地域との相互理解

 

藤野にやってくる多くの移住者は、昔からそこに住う地域の方々やその他の移住者と有意義な関係を築くことに大きな関心があります。人の関係性がうまく行かない多くの原因は、相互コミュニケーションが成立しないことにあります。そういった地域内で起こりうるわだかまりや軋轢を解消する効果がこのような「おまつり」にはあります。祭という言葉には「政まつりごと」という意味が昔からあります。人々をつなぎ、コミュニティをまとめようという際に、必ずこのような「まつり」は必要だと私たちは考えています。

 

◉目的3 シュタイナー共同体に欠かせない広報活動

 

当イベントは、シュタイナー学園が主催ではありませんが、シュタイナー移住者の良好な地域との関係構築ということが大きな主題でもあります。
 そこで、果たしてシュタイナー共同体として地域交流に関して語られている言葉はないのかと探しました。
 そして、それはシュタイナー学園が発行する「学校をささえるーシュタイナー学校の共同体づくりー」という書籍に書かれていました。シュタイナー学園が発行している書籍ですから、学校運営に際して欠かせない事柄をデリケートに考慮しながら制作された書籍だと考えています。とある個人が、独断でこの書籍を執筆したわけではなく、北米ヴァルドルフ学校協会(AWSNA )が発行した「The Art of Administration」を和訳したものあり、米国における共同体構築の際に関わった何人かの関係者が執筆しています。

 

当書籍の第7章「学校の広報活動」にて地域交流に関する記載があります。この章は、コーネリウス・ピッツェナーというヴァルドルフインスティテュートの広報を担っていた方が執筆し、日本語訳されたものです。以下にその一部を抜粋します。

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どのシュタイナー学校も、それぞれが所属する地域社会の中の大切な一部分と言えます。学校は毎朝、地域社会から大切な人々を迎え入れ、毎夕、その人たちを家庭へと送り返します。シュタイナー学校は、この呼吸のような動きによって、学校に通う子供たちやその子どもたちに緊密に関わる人々と直接的に関わっています。このため、地域社会に向けた広報活動は、シュタイナー学校にとって大変重要です。

 

中略  

広報活動とは活動と同時に「心構え」でもあります。相手を寛大に受け入れる態度や関心を持って臨む姿勢、信頼感、分かち合いの精神などの心構えを持つこと自体、学校見学会や入学説明会、記者会見、広報誌などに匹敵する広報活動と言えるのです。こうした心構えを身につけるには、地域社会への広報活動とは、一方通行ではなく、相互的な対話だと考えるのが一番でしょう。広報活動とは「単純で何も知らない、敵意に満ちた世間の人々に対し、あらゆる代償を払って、必死でメッセージを押し付けること」ではありません。

 

中略  

広報活動とはむしろ、私たちと一緒に地域社会を生かし、成長させ、地域の教育の現実や必要性に関わりませんか、という誘いなのです。 私たちは個人としても組織としても孤立した存在ではありえません。誰もが相互の関係、同じ目的、関わり合いを必要とし、求めています。広報活動とは、簡単に言えば「孤立しないための活動」なのです。

 

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書籍には、詳細にこれらの広報活動についての記載がありますが、私たちはこの「心構え」に基づいて当イベントを運営しています。一方通行にならず、相互理解ができるだけ反映される場になるよう心がけています。

 

上記の心構えは当たり前と言えば当たり前のことですが、シュタイナーに限らず、ひとつのコミュニティを形成する際に欠かせない簡単なようで難しい考え方でもあります。

当イベントは、シュタイナー学校の教育プログラムとは関係のないものではありますが、シュタイナー共同体の運営に際して欠かせないものであると認識しています。

また、ルドルフ・シュタイナーは教育のみならず「人智学」という社会思想に基づいて教育や医療、政治にもたずさわりました。人智学のベースとなる考え方に「社会3層化論」というものがあります。

社会の構造を精神生活と政治/法律、経済生活に分け、精神生活における「自由」、政治/法的な「平等」、経済における「友愛」の3つの考え方が人智学の根幹にあります。これらの3つの概念は、はっきりと区分けされながらも力強く関係性を保っている必要があると言われています。

シュタイナーは、この思想を第一次世界大戦の混乱の中で、反戦反差別の意図を持って構築したと考えられています。それはいわゆる共産主義思想が持つ一様でアンチ個性な考え方とも違いますし、欧米資本主義が持つ格差ありきの思想とも違います。

自由な発想やあり方を多様に許容し、平等にお互いの存在を尊重し、助け合いの精神でコミュニティを形成しようという思想はまさに現在の藤野地区をはじめとするオルタナティブなコミュニティが持つあり方と一致するように思えます。

私たちは、人智学が単なる一部の精神世界に関心のある特殊な人々のものではなく、一般社会に浸透し、現代社会に適合した概念として認知されるものとなることを願っています。

藤野まるまるマルシェを通じて地域の老若男女が有機的に関わりあい、助け合いながら居心地のいい環境が末長く続くことを願っています。

文責 有田帆太